一般的に不妊とは、夫婦生活を送っているにもかかわらず、2年以上たっても妊娠にいたらないことを言います。
晩婚化に伴い、妊娠を希望する年齢が高くなっているため、夫婦生活が2年たたずとも病院へ来院する人も増えています。
今回は、私が産婦人科で勤務している中で、男の子がほしくて人工授精に至ったご夫婦のエピソードをお話します。
目次
人工授精をすぐに選択したご夫婦
結婚1年目の35歳の妻、37歳の夫は挙児(子どもを得ること)希望のため産婦人科を来院しました。
お2人とも既病歴はなく、避妊せず普通の夫婦生活を送るようになったのも3ヶ月前からとのことでした。検査結果も大きな問題はありません。
そうなるとまずは女性が基礎体温などを測って、排卵日前後に性交渉を行うよう指導をするタイミング療法が一般的です。
ですが、そのご夫婦はすぐに人工授精を希望しました。
とにかく早く妊娠がしたい
とにかく早く、確実に妊娠したいといった希望でした。
ご主人は仕事で帰りが遅く、なかなか指定日にSEXできないとのことだったので、段階がとびますが治療に入りました。
不妊治療は高額との印象がありますよね。
人工授精は病院にもよりますが、1回1万円前後です。体外受精となると何十万単位で費用がかかってくるため、その印象が世間では強いようです。
人工授精、そして妊娠
人工授精は男性の精子を遠心にかけたものを、排卵日と思われる日に女性の子宮内に注射します。
そのご夫婦は身体的な問題をかかえていなかったため、すぐに妊娠が成立しました。
産婦人科のスタッフはやはり妊娠できた喜びはご本人・ご家族の次に大きいものです。
一緒に悩み、苦しみ、よりそっているので、無事に出産した時の喜びはひとしおなのです。
そのご夫婦にも妊娠を告げる時は、一同喜んでいました。
しかし、女性の第一声は「性別はどちらですか?」でした。
「男の子しかいらない」
まだ、6週に入ったばかりで性別が分かるのはまだ先です。
そう説明すると、「分かったらすぐに教えてください。男の子しかいりませんので。」ときっぱりと言われました。
主治医は丁寧にもうお腹の中の子には生命が宿っていること、性別は選べないこと、などをじっくり話しました。
すると、女性は排卵日検査をしてもらって、排卵日に受精したら男の子が生まれると聞いて、人工授精をしたのに、話が違う、と言い出したのです。
もちろん病院ではそんな説明はしていません。自分でインターネットで情報を集めたようです。
子どもの産み分けに関する間違った情報
最近では、産み分けなどの本も多数販売されており、またインターネットではさらに信憑性の疑われる情報が拡散しています。
ある一定の理論は成立しているのでしょうが、それでも確率の問題です。
生命誕生の神秘に対し、人工で性別を操作し100%確約できるものなどないのです。
排卵日や女性がエクスタシーを感じている時に受精すると男の子、そうでない場合は女の子が生まれるやら、性染色体の酸性・アルカリ性耐性の性質を利用してゼリーを注入してからSEXする、はたまた食事療法などいろんな方法がささやかれています。
ちょっとした軽い気持ちで楽しんで取り組むのは自由でしょう。
でも、今回の女性のように望んでいる性別でなかったらいらないというのはどうでしょうか。
しかも、不妊治療を行っています。医師にはタイミングが合わないなど最もらしい理由をつけて、男の子が生まれる確率を上げたがために人工授精を受けたのです。
単なるエゴか?本当に不妊なのか?判断できない現実
ただただ、わが子が抱きたくって不妊治療に取り組んでいるご夫婦が多くいます。
不妊治療は自費診療のため、お金の負担も大きいです。そのために国や自治体では助成を行っています。
自分のエゴのために不妊治療を行い、助成を受け、堕胎する、それがシステム上取り締まることのできない現状があります。
男の子がほしい一心で堕胎
この女性はお腹の赤ちゃんが女の子だったため堕胎されました。
もちろん、名目は経済的理由です。
男の子がほしかった背景
子どもを堕胎した背景には、また複雑なエピソードがありました。
女性はご主人との結婚をご主人のご両親から反対されており、押し切った形で結婚。
名士の家柄の長男ということもあって、名前を告ぐ男の子が必要でした。
女性は2人姉妹で、母方父方も女兄弟しかいません。義理の両親からは“女腹”なんじゃないか、と言われ男の子を産まないと、自分も両親も人格までも否定されたままだとコンプレックスを抱いていたのです。
交際期間からそれは感じていましたが、結婚後特にひどくなったそうです。
ご主人の前ではそういった態度は見せないため、相談しても軽くあしらわれており、ひとりで追い詰められていたのです。
女の子の赤ちゃんを産み育てている間、さらに風当たりが強くなることに恐怖を感じていました。
そして、当たり前ですがその間妊娠することはできません。それなら、諦めてすぐにまた男の子を授かるチャンスを得たいというのです。
男の子、女の子どちらでも我が子
この堕胎を、ただの身勝手だと第三者が全面的に否定することができるでしょうか。
子どもができないこと、男の子ができないこと、女の子ができないこと、それぞれみんなコンプレックスなのです。
でも、子どもが授かったとして、男の子が授かったとして、女の子が授かったとして、本当にコンプレックスはなくなるかは疑問です。
他人へのプレッシャーでコンプレックスを抱いていると、次にまたすぐにコンプレックスは生まれると思います。
それこそ、育て方、子どもの出来、母親としての資質など他人に攻撃される要素は永遠続きます。
自分のために強くなれなくても、母は子のために強くなれると信じています。
どんなママも子どもにとっては一番なんです。
ママがただいるだけで、世界中のだれよりも大好きでいてくれるのがわが子です。
だから、ママも子どもにとってそうあってほしいと思っています。
by shibaiku
記事公開日 2017/11/23
最終更新日 2017/11/23