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高齢出産とダウン症の発症率。悩んだ女性の選択
私が務める病院に来ていた、35歳で初めての妊娠を迎えつつある裕子さん。
赤ちゃんが大きくなる過程で、ダウン症の発症率と悩んでいた彼女の選択についてお話します。
高齢出産・高齢妊娠の定義
最近は女性の高学歴や社会進出に伴い晩婚化がすすみ、高齢妊娠・高齢出産が多くなりました。
高齢妊娠は全妊娠の約28%を占めているとも報告されています。
一般的に、高齢妊娠とは「分娩時の母親の年齢が35歳以上」と定義することが多いです。
35歳って若いですよね、仕事もやっと面白く感じてくる年齢だと思います。
それに社会で活躍している女性ほどアンチエイジングのおかげか、おしゃれに気をつけているからか、生きがいをもっているからか…、外見もとても若くみえるのも事実。
だからついつい勘違いしてしまうんですよね、まだまだ若いって。
でも、体内の機能は昔よりも全体的に低下しており、特に生殖機能は実年齢よりも衰えている人も多いのです。
高齢妊娠・出産のリスク
高齢妊娠の増加にともない、妊娠中の合併症をはじめ、出産後の育児困難、先天異常とされる染色体異数性異常も増加傾向にあります。
染色体異数性異常で頻度の高い疾患の1つがダウン症です。
ダウン症って?
人は性別を決定する染色体の他に、22番まで父親由来と母親由来の染色体をペアで持っています。
ダウン症候群とは21番目の染色体が1本多く3本あるために起こる生まれつきの疾患です。
多くは母親に由来し、細胞が分裂する際に異常が起こることが原因です。母親の加齢にともなって、その出生頻度は増加するのです。
35歳で初めて妊娠した裕子さんは妊婦健診で胎児の検査をするかどうかを医師から説明されたことにまず驚きました。
自分が高齢妊娠という実感がなかったのです。
今は母子手帳に○高(マルコウ)の判子なんて押しませんが、カルテにはしっかり記載されます。
思いもよらなかった言葉に即答できず、一旦持ち帰り、旦那さんや両親にも相談してから返事をすることにしました。
ダウン症の発症率と高齢妊娠・出産の関係
高齢出産とダウン症について、帰宅途中にスマホで必死に検索…。
ダウン症候群の出生頻度を母親の年齢別に調査した結果が公表してあり、母親の分娩時年齢が25歳のときは1040分の1であるのに対し、35歳のときは297分の1であると報告されていました。
さらに、40歳では86分の1、45歳では21分の1です。
裕子さんは自分の年齢のせいで赤ちゃんが障害をもって生まれてくる可能性が高くなるなんてこと今まで考えたこともなかったのです。
裕子さんは不安になりました。ただでさえ、はじめての妊娠・出産は嬉しさの反面不安でいっぱいなものです。
その上、障害をもって生まれてきた子どもを、愛情を持ってしっかり育てあげることができる!と言い切れる人がどれほどいるでしょう。
家族に裕子さんはその不安を人にぶつけました。
出産前に受けられるダウン症検査
妊娠を待ち望んでいた父や夫には「なにを馬鹿なことを言っているんだ」と怒られました。「うちの家系にあり得ない」というのです。
でも、ダウン症はだれでも起こりえる疾患です。
母は「自分の生んだ子どもはかわいいと思えるから」と言ってくれました。
それでも、裕子さんはこわくてこわくて仕方がありませんでした。
結局、ひとまず医師の説明は受けることになりました。
次の健診では夫もついてきてくれてともに説明を聞くことになりました。
出生前遺伝学的(NIPT)検査
今までは、胎児診断は羊水検査が一般的で、穿刺時に強い痛みがともなっていました。
その上、流産を引き起こす可能性もあります。
平成24年より母体血による新しい出生前遺伝学的(NIPT)検査が認められました。
母親の身体(一般的に腕)からの採血のみで検査ができるのです。
妊娠10週から出生前遺伝学的(NIPT)検査は可能で、検出率はとても高いとされています。
ダウン症候群については、ことに99%とされています。
出生前遺伝学的(NIPT)検査を受けることができる対象者はハイリスク妊娠に限定されおり、高齢妊娠もそのひとつです。
出生前遺伝学的(NIPT)をする前には必ず専門医のカウンセリングを受けます。
自分できっちり理解し、納得してから検査を受けることが大切です。
家族と一緒に受けることもできます。
カウンセリングを受けた後に検査をしないという選択もできます。
選択の多様性がゆえに悩むことも増えています。
どのような選択も自分で決めなければなりません。
それぞれよく話を聞き、周りの人に相談し、納得いってから決定することが一番大切なのです。
インターネットの情報は捉え方に注意
情報社会の中、パソコンやスマホのクリック1つで簡単に知りたいことを知ることができます。でも、それは正しい情報である確証はありません。
そして、情報は本人の捉え方が重要です。
ダウン症の統計でも、出生する頻度を算出すると確率はおのずとでてきます。
ですが、それはあくまでも数値上でしかありません。
裕子さんの赤ちゃんがダウン症である確率ではないのです。
世界中で生まれている赤ちゃんのうち、赤ちゃんがダウン症である統計です。
そもそも完璧な人間なんていません。完璧な赤ちゃんじゃないと認められないのでしょうか。美しくて賢くて身体能力も高くて…、そんなことはありません。
ダウン症の症状は個人差が大きい
知的発達、身体的合併症
ダウン症は、知的発達の遅れと特有の顔立ちの他、難聴や視覚などの感覚器の障害、免疫力が極端に低かったり、心臓が弱かったりとさまざまな身体部分に合併症を持って生まれる場合があります。
ただし症状は個人差が大きく、みんながみんなそうではありません。
重い合併症にかかる子どももいれば、ほとんど合併症のない子どももいます。
そして、他の子どもと同じく成長と共に身体は強くなっていくことが多いのです。
身体以外でも知的発達の遅れやコミュニケーション障害があることも多いです。
しかし、ダウン症のお子さんはおっとりとやさしい性格を持っている子が多いといわれています。
もちろん、気質もそれぞれの個性があり、活発な子どももいます。
性格には1つの特徴が
21番目の1本多い染色体は「やさしさの染色体」といわれるほど、ダウン症の疾患特徴の中で、性格のやさしさはすばらしい特徴だといえます。
大昔はダウン症は短命といわれていましたが、今はそうでもありません。
日本人の一般平均余命年齢は男性が70代、女性が80代とされていますが、ダウン症候群の方は60代と報告されています。
すべて、どう捉えるかはあなたやあなた家族次第なのです。
裕子さんは、出生前遺伝学的(NIPT)を受けることにしました。
夫の強いすすめがあったからです。
でも、裕子さんはもし結果が陽性でも産む決心はついていました。
病院の交流会で1人のダウン症の子どもを持つママに出会ったからです。
全ての選択は自分次第
裕子さんが出会ったママの「自分が正しいか正しくないかは分からない。でも、“さよなら”するのも“こんにちは”するのも自分次第と思う」という言葉に胸のつかえがとれました。
母親にとって子どもを堕ろす罪悪感、喪失感は想像を絶します。でも、それも選択なのです。罪ではないのです。
“こんにちは”を選んだことで、辛いことも嬉しいこともあるといいます。
兄弟は健常者です。
将来、負担をかけることもあるでしょう。
でも、二人は仲良しです。そんな姿を見ていると善悪ではなく、ただ幸せだな、と思えるそうです。
大切なのは自分でも「幸せを感じる」選択をすること
つまりは、ママ本人が幸せに感じる選択をしなければならないということ。
もし、家族の猛反対に合って、ママも心身ともにぼろぼろになっているところに“こんにちは”しても幸せを感じられないかもしれません。
とにかく芽生えた命は大切!守らないと!という考えもあるかもしれません。
どれもこれも、ひとり一人それぞれの考え方です。自分の哲学で責任持って行動すれば、きっと後悔はしないでしょう。
裕子さんの結果は陰性、元気な赤ちゃんを出産しました。
2人目を授かることができたら、自分は今より年齢を重ねているけど、もう検査自体も受けようとは思っていないそうです。
by shibaiku
記事公開日 2017/05/02
最終更新日 2017/05/02