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不妊の原因は男女ともにある
子どもが産めないということは女性にとってどれほどのコンプレックスになるでしょう。
でも、それは男性も同じことです。
愛する女性に子どもを産ませてあげられないことは、男性にとってとても辛いことなのです。
不妊の原因は男女で6:4
多くの人は結婚の先に、子どもをもって家族が増えることが“当たり前”と思っています。
みなさんは、自分がその“当たり前”とされることができなかったら、どれだけの劣等感にさいなまれるか、想像もできないのではないでしょうか。
子どもができない原因は昔から女性のせいばかりにされてきました。「石女」(うまずめ)という差別的な言葉があるくらいです。
ですが、医学の進歩により不妊の原因は男性にもあることが分かってきました。
今では症例統計で女性不妊と男性不妊の割合は6:4とされています。
しかし、現実は、嫁ぎ先では検査もしないうちから嫁に原因を押し付けるケースがほとんどです。
特に上流階級の家柄ではよくあることなのです。
いい家柄だと自分が問題の原因になるわけない、とでも思っているかのようです。
不妊の夫婦のエピソード
産婦人科に勤めている身として、ご本人たちのプライバシーを守りつつ1つのエピソードをご紹介したいと思います。
あるご夫婦がいらっしゃいました。
このご夫婦はお2人ともの32歳の時に結婚し、夫婦生活が3年立ちました。
子どもができなかったので、お姑さんに女性は病院を受診するよう促されました。
子どもができない「出来損ない」
そもそも女性は子どもが苦手だったので、夫婦2人の生活を楽しみたいと考えていましたが、子どもができないことで常日頃からお姑さんに「出来損ない」扱いを受けて、とてもくやしく思っていました。
旦那さんのことはとても愛していましたから、この人の子どもならかわいいかもしれない、と思い、35歳になった自分の年齢のことも気にして、とりあえず産婦人科を受診してみることにしました。
検査結果は数値は年齢相当でしたが、子どもができない原因はありませんでした。
産婦人科受診を拒む夫
女性側には特に原因が見当たらない。
そうなると、という事で医師には夫婦で受診するようすすめられました。
そのことを夫にいうと、なぜか姑が激怒したのです。
「あなたが悪いに決まっている。なにを息子のせいにしようとているの!」
と大声で怒鳴りつけられました。
女性はなにも夫のせいだと言っていません。
ただ、医師から夫婦で受診するように言われたことを伝えただけです。
姑は「そもそも、こんな女との結婚も認めたくなかった。そのうえ、子どもまでできないし、それを息子のせいにするなんて・・・」とぶつぶつこぼし、気持ちがしずまる様子もありません。
夫も夫です。
そんな様子の姑を止めることもなく、無言のままです。
この場を収めるために、なぜか女性が謝りました。
精子の量が少ない”乏精子症”
子どもができないことに引け目を感じた女性は、一人で産婦人科に通院し、タイミング療法を行っていましたが、子どもができる様子はありません。
次のステップへ進むにはどうしても夫の受診が必要です。
「次の治療のためだから」と夫と姑を説得し、夫婦で受診しました。
診察後、夫が乏精子症ということが判明しました。
原因は不明です。
精子の濃度が薄いという症状の病気です。
夫はかなりショックを受けていました。
原因が自分にあることを恐れ、すすんで受診できなかったのです。
だから、姑が女性を責めていても口出しできなかったのです。
夫は子ども好きでしたから、自分の子どもがほしいと強く思っていました。
でも、もし愛する妻に子どもができないなら諦めもつくだろうと思っていたそうです。
それが、自分が原因だったのですから、女性に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
そしてなにより、男としてのプライドが傷つきました。
どうする?乏精子症
乏精子症は原因不明なだけに治療効果も高くありません。
また効果が期待できる場合でも、効果が現れるまで時間がかかります。
女性の年齢も35歳と高年齢のため、女性への不妊治療のアプローチが優先されます。
身体への負担は女性にくるのです。
診断結果を知った姑は無言でした。
女性は自分が原因でないことにホッとし、夫の気持ちを考えるとなんだか姑に今までのことを詫びろと責める気にはなりませんでした。
夫は自分のせいで女性が辛い思いをしてまで不妊治療をする必要はない、と言いました。
自分を思いやってくれる気持ちが嬉しくて、夫と一緒に頑張ってみよう、この人の子どもがほしいと思ったのです。
人工授精から体外受精へ
不妊治療は次に人工授精を試みましたが、子どもが授かりませんでした。
次のステップは体外受精です。
体外受精になると費用も高額になります。
その次のステップの顕微授精になるとさらにです。
夫婦で話し合い、体外受精までの治療にとどめることを決めました。
病院にお任せするしかないのですが、プレッシャーが重くのしかかりました。
体外受精ではできるだけよい卵子を採取します。
卵子の質を落とさないようホルモン環境を整えるために、女性は注射や薬を飲まなければなりません。
悪心や嘔吐、頭痛などの副作用に悩まされました。
採卵時には痛みも伴いました。
なぜ自分ばかり辛い思いをしなければならないのか、とも思いましたが、夫もなるべくよい精子が作られるよう漢方薬を飲んだり、規則正しい生活を送る努力をしてくれたり、なにより女性をやさしく気遣ってくれていました。
その後、体外受精させた受精卵を無事に子宮にもどすことができました。
上手く着床させるためのホルモン補充でも女性の体調は優れませんでした。
姑はそんな長く辛い時間を過ごす女性を見ていてか、今までの非礼へ初めて女性に詫びたのです。
そして、息子の子どものためにありがとう、と感謝してくれました。
女性はこの不妊治療がきっかけで、今まで辛かったことが報われた気がしました。
不妊治療の結果
このご夫婦の体外受精の結果、晴れてお子さんが生まれました。
女性もわが子はこれほどにかわいいと思うのか、と今まで子どもが苦手だったことがうそのようです。
夫も本当にこの子に救われたと言っています。
夫はひとり息子でしたから、自分の身体のせいで家がとぎれることを想像すると怖くて耐えられなかったそうです。
そういったプライドが保たれたこともありますが、やっぱりただわが子はかわいいという気持ちの方が強いようです。
今回のことがきっかけで、今まで不仲であった姑とも和解でき、関係は良好です。
子どもができない原因が自分でないことに安心もしましたが、愛する夫の気持ちを考えるととても辛かったです。
だからこそ、治療を頑張れた、と女性はいいます。
by shibaiku
記事公開日 2017/03/26
最終更新日 2017/04/28